名古屋高等裁判所 昭和50年(ラ)62号 決定 1975年8月11日
抗告人 山岸竹吉
右代理人弁護士 大野悦男
相手方 内一商事株式会社
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は、抗告人の負担とする。
理由
本件抗告の趣旨及び理由は、別紙即時抗告申立書及び準備書面(省略)記載のとおりである。
一、抗告人は、相手方は本件破産申立にかかる債権を被担保債権として、抗告人所有の全不動産に抵当権を有する別除権者であるから、破産の申立ができないと主張する。しかし、別除権者も破産の申立をなし得るものと解するを相当とする。別除権者は、破産宣告がなされた場合には、破産手続において、別除権を放棄し、または別除権の行使によって弁済を受け得ない不足額についてのみ、その権利を行使し得るにすぎないが(破産法九六条)、破産の申立自体は一般債権者の資格をもってするのであるから、別除権を放棄せず、また別除権の行使によって弁済を受け得ない不足額の有ることを疎明しなくても、債権を有する以上、破産の申立ができるのである。抗告人のこの主張は理由がない。
二、抗告人は、相手方は抵当権の実行により十分弁済が得られるから破産債権者ではない。かりに破産債権者といい得るにしても、抵当権の実行により十分弁済を受け得るのに、敢えて本件破産の申立をしたのは権利濫用であると主張する。しかし、記録編綴の各資料によれば、相手方が破産債権者であることは明らかであり、また、本件破産の申立を権利の濫用と目すことはできない。抗告人のこの主張は理由がない。
三、抗告人は、抗告人の財産状態は未だ支払不能ではないと主張する。しかし、本件記録編綴の各資料によれば、抗告人が支払不能の状態にあることが認められる。抗告人所有の大部分の不動産には、いずれも第一、第二順位の抵当権が設定され、かつ換金困難な状況にあることも明らかであるから、右不動産があるからといって、支払不能の状態ではないとはいえない。抗告人のこの主張も理由がない。
以上の理由により、原決定は相当であり、本件抗告は理由がないから棄却すべきものとし、抗告費用の負担につき、民事訴訟法九五条、八九条を適用して主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 柏木賢吉 裁判官 夏目仲次 菅本宣太郎)
<以下省略>